
- 27 Thu. 2020up OTHER 別府八湯ウォーク
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『すじ湯』(鉄輪温泉) 温泉コラム 1
夕暮れ時、『 すじ湯 』の扉をからからと引く。ほっかりと湿っぽい脱衣所のにおいが 、 晩秋の冷気に消えていく 。湯気の上る浴槽はすぐ目の前にある。
温泉って、「脱衣所から扉を開けて入 った浴室 」のことで、「 洗い場でシャワーを使った後に浴槽に浸かる」ものだと思っていたから、初めはびっくりした。別府の公衆温泉の多くは、脱衣所――洗い場――浴槽がひとつづきになっている。シャワーもない 。
「熱くないかい?」先に入っていたおばあちゃんが話しかけた。
「もう、慣れました」、答えるとおばあちゃんは「そうかい」と笑った。
「お隣の『熱の湯』も、熱くなかったです」と私は、熱そうな名前を冠した温泉のことを話す。
「ああ、『熱の湯』より『渋の湯』のほうが熱いんよ、でもぬるいときはぬるいけぇね 」
別府のお湯は総じて 熱いが 、もう慣れた。浴槽だけの「 ひとつづき 空間 」にもすぐに慣れた 。
別府は海と山に囲まれ、別府湾に沿って南北にのびた町だ。だから別府の人は方角を示すときに「海側」「山側」という。 ちょうど京都の人が「上ル」「下ル」を使うように。
町と山の境界に沿って 「別府 8湯」と言われる 8か所の温泉郷があり、そのひとつが、 ぴったりと山肌に張り付いた「山側」の町・ 鉄輪(かんなわ)エリアだった。
「8湯」の中に源泉がどれほどあるかというと、 日本全国の源泉の10分の1があるらしい 。
その数は2000孔を超える 。 湧出量も日本 1位 、 世界2位( 世界 1位はアメリカのイエローストーン)。
ここは名実ともに「日本一」の温泉地なのであった。
さてしかし、観光地としてあまりに有名だと、そこでの暮らしがなかなか想像しづらくなって、それはひとつ問題でもある。
「別府からリモートで働いています」というと、いつも「うらやましい」と言われる。「うらやましい、温泉三昧じゃん」と。「私も/僕も、のんびり休みに温泉行きたい」と。
いやたしかに、温泉三昧である。なんなら毎日、100円や 200円で違う温泉に通っている。
でもそれは別府界隈 が、「 家風呂が外に拡張した町 」だからである。私たちはこの町に住みながら、行きつけの食堂を家の台所代わりにするように、居酒屋をテレビ代わりにするように、コワーキングスペースをデスク代わりにするように、衣食住の中にある「浴」を外に出して暮らしている。
「休み」に温泉に浸かるのではなく、「住み、働き、 行きつけの飲み屋に行く」延長で温泉に通う 。そんな暮らしを3カ月 。
都会出身の私にとってかつて「ぜいたく品」だった温泉は、ここにきて日常の一部になってしまった。仕事に飽きた昼下がりでも、二日酔いの朝でも、肌寒い夜でも、家のシャワーをひねるのと同じような気軽さで、 ざぶんとお湯にくぐる。
私はまた、執筆していた本の初稿が完成し、それをやっと編集者に送り付けた晴れやかな秋の夕暮れにも、『すじ湯』を訪れた 。
ばさりと顔を湯でぬぐうと、ほんのりと鉄と塩の味がした。鉄と塩の強く溶けこんだ鉄輪の温泉では、湯をなめることにも楽しみがあると、その日知った。
『すじ湯』を出ると、 道沿いにはこま切れに銭湯や温泉宿の看板がつづいていた。透かし彫りのように細い石畳の坂を 、「山側」に上る。
脱衣所のにおいは街じゅうに出てきて、柔らかく漂っている 。湯けむりが立ちのぼる裏通りが、どこか眠い。いつの間にか日は暮れて、夜風は冷たく、小道はしゅうしゅう音を立てていた。まるで地中から、大きな誰かが息を吐いているようだと私は思った。
文:原口 侑子
写真:©︎ 85mm Closer
今年の春に帰国したら、Covid-19の影響でしばらく日本に滞在することになった。
「じゃあ、国内で行ってみたかったところに行って、暮らしてみよう」ということになった。
パートナーは温泉地で暮らしたいと言った。私は九州に来たかった。第一候補として別府が浮上し、夏にお試しで3週間暮らした。
夏の日差しがゆるむ夕暮れに、毎日海辺を歩いた。
素敵な一軒家を借り、青魚と日本酒、鶏刺しと焼酎に舌鼓を打った。飲食店には「STOPコロナ差別」という張り紙を見た。
毎日100円や200円で温泉に入れるという生活そのものが、極上のごちそうのようであった。
別府の美味しさと懐の深さと、その暮らしやすさの源泉を、もっと知りたくなって、秋から3ヵ月の期間限定で、再び別府に住まわせてもらっている。
原口侑子(はらぐちゆうこ)ライター・弁護士
東京都生まれ。世界各国への旅(124カ国)、開発コンサルタント(アジア・アフリカの制度調査)などを経て、30カ国の裁判所を巡った『世界の裁判を旅する(仮)』(コトニ社)を2021年刊行予定。
その他ウェブメディア掲載記事:
https://jbpress.ismedia.jp/search/author/%E5%8E%9F%E5%8F%A3%20%E4%BE%91%E5%AD%90(紀行エッセイ)
https://www.call4.jp/story/(社会記事/訴訟ストーリー)
別府市は、株式会社ビームス(本社:東京都渋谷区、代表取締役:設楽洋)のプロデュースによる新プロジェクト「BEPPU* Local Paragraphs」を立ち上げ、
突然ですが「べっぷぢごくすごろく」完成しました。
『別府ONSENアカデミア』は、温泉の様々な魅力を検証し、大切な資源である温泉を守りながら、国内の多くの温泉地とともに新たな温泉の可能性を全国、そして世界に向けて発信する温泉のシンポジウムです。
別府の古墳は、血の池地獄の泥で赤く塗られている そんな話をご存知だろうか? 6世紀後半から7世紀初頭(今から1400年以上前)には、地獄の泥が塗料として利用されていたというのだ。 別府の知られざる古代ロマンを紐解いてみよう。
一人べっぷカレージャンボリー「カレー道引退宣言⁉」 其の三
別府八湯温泉道は日本一の温泉地、別府の温泉を味わい尽くす、「志(こころざし)高き温泉好き」のためにあります。別府には日本の源泉の約1割にあたる、約2300の源泉があり、その中の約140湯の共同温泉やホテル旅館の温泉が、この温泉道に参加しており、その中の88湯をめぐり「スパポート」と呼ばれるスタンプ帳にスタンプを集めることで、「別府八湯温泉道名人」の称号を与えられます。
圧倒的な湧出量と源泉数を誇る別府の温泉。日本一と呼ばれる温泉地であるが、その楽しみ方も千差万別。ロケーション、泉質、効果効能、美肌、生活感など、それぞれの温泉にそれぞれの個性があります。ぜひ湯桶を片手に湯めぐりを楽しんでみませんか。
温泉地・別府には海外からも数多くの観光客が訪れる。欧米から来た人たちは特に、美しい自然を見ながら入浴できる温泉を求める人が多いという。別府を隅々まで知り尽くした「温泉名人」たちに、とにかく景色が良いオススメの一湯を紹介してもらった。
オッス!オラ筆者 この世には不思議なものが、まだまだあふれている。その一つが「温泉ハンター」だ。温泉ハンターとは、携帯アプリで別府市内にある温泉の位置を教えてくれる優れものである。この温泉ハンターアプリを使った温泉探しの旅もいよいよクライマックス。
別府には日本の源泉の約1割にあたる、約2300の源泉があり、その中の約140湯の共同温泉やホテル旅館の温泉が、この温泉道に参加しており、その中の88湯をめぐり「スパポート」と呼ばれるスタンプ帳にスタンプを集めることで、「別府八湯温泉道名人」の称号を与えられます。